MetalloFluor™ Series

FerroOrange

[遊離鉄 (II) イオン検出用蛍光プローブ]

570-590 nm:橙色

FerroOrange は RhoNox-4 としても知られる、遊離鉄 (II) イオン (Fe2+) のみを特異的に検出するオレンジ色蛍光プローブです。 鉄 (III) イオン (Fe3+) や鉄以外の 2 価の金属イオンでは蛍光強度は増加しません。またフェリチンなどにキレートされた鉄とも反応しません。FerroOrange は高い細胞膜透過性があり、迅速に反応した後は細胞内にとどまるため、ライブセルイメージングに使用できます。
また、本試薬にキレート作用はございません。

 

FerroOrange は岐阜薬科大学 創薬化学大講座 薬化学研究室の永澤秀子先生、平山祐先生のご指導・ご協力のもと五稜化薬株式会社が製品化しました。

 

FerroOrange は Merck KGaA (Darmstadt, Germany) からも全世界にて
SCT210-5×35nmol  BioTracker FerroOrange Live Cell Dye
SCT210-35nmol       BioTracker FerroOrange Live Cell Dye
の名前で販売されています。

 

価格

型番 製品名 容量 希望小売価格(税抜価格)
GC904-01 FerroOrange 35 nmol × 5 ¥ 49,800
GC904-02 FerroOrange 35 nmol × 1 ¥ 13,000

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  • プロトコル

  • SDS

  • 製品情報

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    FerroOrange の物性

    名称 検出対象 膜透過性 反応 Absmax (nm) FLmax (nm)
    FerroOrange Fe2+ あり 不可逆 542 572

     

    スペクトル


    FerroOrange の吸収スペクトル(左)および蛍光スペクトル変化(右)。Fe2+ との反応により、572 nm を最大とする蛍光強度が著しく増大します。

     

    FerroOrange の反応特異性


    さまざまな金属イオン、および活性酸素種や還元剤に対する FerroOrange の反応性。Fe2+ と反応したときの蛍光強度を 1.0 としたときの相対蛍光強度で示しました。Fe2+ 存在下でのみ、FerroOrange の顕著な蛍光増加がおこります。

    測定条件
    • (左)2 μM FerroOrange を溶解した HEPES buffer (0.05 M, pH 7.4, コソルベントとして0.1 % DMSO を含む)に、各金属イオン (Na+, K+, Mg2+, Ca2+は1 mM、その他は20 μM)を添加。37℃で 60 分反応後に蛍光強度を測定。
    • (右)2 μM FerroOrange を溶解した HEPES buffer (同上)に、各活性酸素種および還元剤を添加。37℃で 60 分反応後に蛍光強度を測定。
    • 励起波長 530 nm、測定波長 575 nm の蛍光強度をHITACHI F-2700 分光蛍光光度計でスリット幅 2.5 nm, フォトマル電圧 700 V にて計測。
    活性酸素種生成条件および還元剤投与濃度
    • O2 : 100 µM KO2H2O2 : 100 µM H2O2
    • OH : 200 µM H2O2 and 20 µM FeSO4
    • OCl- : 100 µM NaOCl
    • NO : 100 µM NOC-12 in 0.1N NaOH
    • Fe2+: 20 µM FeSO4
    • Glutathione (GSH) : 1 mM
    • Ascorbic acid (V.C) : 1 mM
    • Ctrl (control): 50 µM HEPES buffer のみ

     

    反応の定量性

    Fe(SO4)2(NH4)2 の濃度に応じた 2 μM FerroOrange の蛍光強度変化。モル比で 5 倍程度までの Fe2+ と反応します。

    2 μM FerroOrange を溶解した HEPES buffer (0.05 M, pH 7.4, コソルベントとして 0.1 % DMSO を含む) に各濃度の Fe(SO4)2(NH4)2 を添加。37℃で 60 分反応後に蛍光強度を測定。励起波長 530 nm、測定波長 575 nm の蛍光強度をマイクロプレートリーダー (TECAN infinite M200Pro) にて計測。

     

    FerroOrange の細胞毒性

    一般的な使用濃度の 100 倍 (100 μM) でも細胞毒性が見られません。


    FerroOrange の各濃度に対する HepG2 細胞の代謝活性。各濃度の FerroOrange (コソルベントとして 1% DMSO を含む)を培地に添加し、24 時間後の代謝活性を MTT assay により比較 (n = 3, エラーバーは標準偏差)。

  • FerroOrange を使った細胞イメージング例

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    FerroOrange を使った細胞イメージング例

    鉄イオン濃度による蛍光強度の差

    FerroOrange は遊離2価鉄と反応して蛍光が増加する蛍光プローブで、細胞内の遊離 Fe2+ イオンをイメージングするために使用されます。ここでは HepG2 細胞内の Fe2+ イメージング例を示しています。左が生理的な細胞内鉄イオン濃度に応答した蛍光強度、細胞外から鉄を添加したもの(中央)は細胞内鉄イオン濃度が上昇しています。また、細胞外に鉄のキレート剤を添加したもの(右)では細胞内鉄イオン濃度が大きく減少しているのが観察されました。

    HepG2 細胞を 1 μM FerroOrange を含む HBSS で 1 時間培養し、試薬をローディングした後に蛍光観察したもの。+Fe2+ は、あらかじめ 100 μM の Fe(SO4)2(NH4)2 を含む HBSS 中で 30 分間培養したのち、HBSS で洗浄して細胞外の Fe2+ を取り除いたのちに試薬をローディングしました。+Bpy は、FerroOrange と同時に鉄のキレート剤として 1 mM 2,2′-bipyridyl を添加したもの。観察は励起波長 530-560 nm, 蛍光波長 570-650 nm の蛍光観察用フィルターセットを使用して行いました。

     

    細胞内局在

    細胞内では主に ER に局在します。

    HT-1080 細胞に FerroOrange (左:疑似カラー赤)を反応させるとともに ER Tracker で ER を染色(緑)および Hoechst 33342 で核染色し(青)、マルチカラーイメージングを行ったもの。FerroOrange は主に ER に局在することがわかる。スケールバーは 10 μm。HT-1080 細胞は JCRB 細胞バンク様より分与頂いたセルラインを使用しています。

     

    FerroOrange と FeRhoNox-1 との比較

    HepG2 細胞を同時に2つのプローブと反応させ、生理的な鉄の検出により両者の蛍光を比較しました。

    HepG2 細胞を 5 µM FeRhoNox-1(左)および 1 µM FerroOrange(右)を含む HBSS で同時に 1 時間培養したのち、蛍光顕微鏡で蛍光観察しました。励起光強度および蛍光フィルターなどの条件は同一です。1 µM FerroOrange は 5 µM FeRhoNox-1 に比べて強い蛍光が観察され、FerroOrange の方が低濃度の Fe2+ に対する感度が高いことがわかりました。

  • FerroOrange および ROSFluor シリーズを用いたフェロトーシス (ferroptosis) 時間経過の生細胞イメージング

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    FerroOrange および ROSFluor シリーズを用いたフェロトーシス (ferroptosis) 時間経過の生細胞イメージング

    フェロトーシスは細胞内の遊離鉄 (Fe2+) 依存的な細胞死で、アポトーシスやネクローシス等とは異なるメカニズムであることが知られています。過剰な Fe2+ により発生した活性酸素種 (ROS) により脂質過酸化などが引き起こされ、細胞死が誘導されます。いくつかの神経変性疾患においてフェロトーシスが引き起こされること、がん細胞はフェロトーシス抵抗性であることも明らかになってきています。
     ここでは、フェロトーシスを誘導する細胞内の過剰な Fe2+FerroOrange で検出するとともに、ROSFluor シリーズの APF, OxiORANGE および HYDROP による細胞内活性酸素種の検出を試みました。

    フェロトーシス過程における鉄イオンおよび活性酸素種発生の可視化

    HT-1080 細胞への erastin 投与によってフェロトーシスを誘導し、細胞死に至るまでの途中となる 3, 6, 9 時間後の各時点における細胞内の Fe2+ および ROS 発生を蛍光イメージングしました。30 µM erastin 投与後、各観察時点の 30 分前に FerroOrange (1 μM),  APF (5 μM), HYDROP (1 μM), および OxiORANGE (1 μM) を添加し細胞と反応させました。遊離 Fe2+ を検出する FerroOrange は erastin 刺激後 3 時間で一番蛍光強度が高くなりましたが、ヒドロキシラジカル (·OH)、次亜塩素酸 (HClO)、およびパーオキシナイトライト (ONOO) を検出するAPF、ヒドロキシラジカル (·OH) と次亜塩素酸 (HClO) を検出する OxiORANGE、および H2O2 を特異的に検出する HYDROP は、刺激後 6 時間で蛍光強度が最大となり、その後減少する蛍光が観察されました。これらのことから、フェロトーシスの過程においては細胞内鉄イオンの増加に続いて活性酸素種が増加することが確認できました。

    フェロトーシスを誘導した HT-1080 細胞における FerroOrange および APF の蛍光の変化

    Erastin を添加した HT-1080 細胞の FerroOrange および APF の蛍光を、各波長域の蛍光強度(上段、中段)および疑似カラーで重ね合わせた。マゼンタは FerroOrange の蛍光、緑は APF の蛍光を示す。スケールバーは、100 µm。

    フェロトーシスを誘導した HT-1080 細胞における OxiOrange および HYDROP の蛍光の変化

    Erastin を添加した HT-1080 細胞の OxiOrange および HYDROP の蛍光を、各波長域の蛍光強度(上段、中段)および疑似カラーで重ね合わせた。マゼンタは OxiOrange の蛍光、緑は HYDROP の蛍光を示す。スケールバーは、100 µm。

     

    実験プロトコル

    1. 3.5 cm ガラスボトムディッシュ(培養容器)に 2 × 105 個の HT-1080 細胞を播種して培養し、細胞を接着させた。
    2. 培養上清に終濃度が 30 µM となるように erastin を加え、37℃, 5% CO2 条件下で 3, 6, 9 時間培養。
    3. Erastin 刺激後 2.5, 5.5, 8.5 時間の時点で、に培養上清に各プローブを添加し、37℃,  5% CO2 条件下で 30 分間培養。
    4. 上記細胞を HBSSで 2 回リンスし、蛍光顕微鏡で観察。

    ※細胞の培養条件等により最適な条件は異なる可能性があります。本実験でも、事前に予備試験により試薬濃度および観察までの時間を調整しました。
    ※細胞がディッシュからはがれやすい場合は、 poly-L-lysine コーティングしたディッシュを使用してください。

    実験のタイムスケジュール。3 時間ごとにずらして erastin を投与し、洗浄、蛍光プローブとの反応は、全てのサンプルで同時に行いました。不可逆的な反応をする蛍光プローブで反応の時間経過を観察するため、同条件の細胞を複数用意し、時間を変えて実験することで、擬似的に時間変化を観察しました。

     

  • FerroOrange および MAR によるスフェロイド中の低酸素イメージング

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    FerroOrange および MAR によるスフェロイド中の低酸素イメージング

    低酸素環境では定常状態に比べ、細胞内 Fe2+ が増加していることが報告されています (T. Hirayama et al., 2017, Chem. Sci. 8: 4858-4866)。そこで、2価の遊離鉄イオンを検出できる FerroOrange と細胞の低酸素応答を検出できる MAR を同時に用いて、低酸素環境で生じる細胞内 Fe2+ の上昇をライブセルイメージングで観察しました。

     

    HepG2 細胞のスフェロイドに MAR (終濃度 1 µM) を加え、37℃, 5% CO2 条件下で約 4 時間培養後、さらに FerroOrange (終濃度 1 µM) を加え、30 分間培養しました。スフェロイド内部で FerroOrange の強い蛍光が観察され(左、赤)、また MAR の蛍光(中央、緑)により同範囲における低酸素状態も検出されました。両者を重ね合わせた画像(右)から、ほぼ同じ範囲で低酸素応答および遊離鉄の増加が起こっていると考えられます。

     

    実験プロトコル

    1. 細胞が接着しにくいディッシュで HepG2 細胞を培養し、スフェロイドを形成させました。(市販のスフェロイド形成キット等も使用可能です。詳しいスフェロイド形成方法、必要な細胞数等は、ご使用のキットやプレートのプロトコルをご参照ください。)
    2. スフェロイドを顕微鏡観察に適した「ガラスボトムディッシュ」等の容器に注意深く移して培養し、スフェロイドを接着させました。
    3. スフェロイドを壊さないように優しく MAR が終濃度 1 μM となるよう添加し、37℃, 5% CO2 条件下で 4 時間培養。
    4. FerroOrange をスフェロイドの入っている培養容器に終濃度 1 μM となるように添加し、37℃, 5% CO2 条件下で 30 分間培養。
    5. スフェロイドを捨てないように気を付けながら HBSS で培養容器を優しくリンスし、HBSS 中で蛍光観察しました。

よくあるご質問

  • Q このプローブはゴルジ(またはER)の Fe2+ のみを検出するのですか?
    A

    プローブは ER や Golgi に局在することが知られていますが、このプローブが検出する Fe2+ は細胞質の Fe2+ も反映しているのではないかと考えられています。ただし、これをきちんと検証した報告はありません

     

  • Q FerroFarRed, FerroOrange は、固定細胞でも使えますか?
    A

    パラフィン切片での使用は基本的にはできないとお考えください。
    生細胞の状態でプローブと反応させた後に、3% paraformaldehyde (PFA)  4℃ 10分固定した場合には検出できた例があります。室温での固定や20分以上の固定では蛍光が著しく減弱することが確認されております。
    また、検証はしていませんが、固定後にこれらの蛍光プローブを添加して鉄を検出することは難しいと考えられます。

  • Q 二価鉄検出プローブは、どのように使い分けをしたら良いですか?
    A

    検出感度が最も高いのは FerroOrange です。赤色レーザーを使用したフローサイトメトリーには FerroFarRed が最適です。
    FeRhoNox-1 は論文実績が豊富にあるため、既存の報告を確実に再現させたい場合に最適です。

    型番 製品名 Exmax (nm) Emmax (nm) 蛍光顕微鏡 フローサイトメトリー
    (青色レーザー)
    フローサイトメトリー
    (赤色レーザー)
    プレートリーダー
    AR2901-U5 FeRhoNox-1 540 575
    GC903 FerroFarRed 646 662
    GC904 FerroOrange 542 572

    FeRhoNox-1, FerroOrange をレーザー励起で検出するためには、532 nm 等のグリーンレーザーの使用を推奨します。

  • Q Q&A を見ても問題が解決しません
    A

    蛍光色素一般に関する Q&A も参照してください

参考文献

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M. Sato, T. Hirayama, T. Fujii, H. Nagasawa, I. Minoura (Jan. 2018)
ASCB | EMBO 2017 Meeting (poster)

*文献中では RhoNox-4 として参照されている場合があります。