ナビゲーションドラッグ
がんの手術において、がん細胞を残らず取り除くことは最も重要であり、微小ながんの可視化が課題となっています。
五稜化薬では新たな方法として、微小な標的部位を高感度かつ選択的に可視化する
Activatable 蛍光プローブ (ND:ナビゲーションドラッグと定義) の開発を進めています。
海外において、乳がん手術(乳房部分切除)を受けた患者のうち約25% が再発により再手術が必要になるとの報告があります1)。再発の原因の一つとして、手術時にがん細胞がすべて摘出されなかった可能性が示唆されています。がん細胞の取り残しを減らすため、様々な研究機関や医療機関で、正常組織と判別しにくい微小ながん部位を手術中に可視化する技術の開発が進められています。
現在、微小ながん部位を特定する術前診断技法として一般的には、PET(陽電子断層撮像法)、SPECT(単一光子放射断層撮像法)、MRI(核磁気共鳴撮像法)が使用されています。近年、手術中に蛍光プローブにより標的部位を検出する技術 FIGSががん部位の検出に用いられ一定の成果が報告されていますが、ミリメートルサイズのがん部位を発見することは困難とされています。そこで、五稜化薬では、蛍光プローブ専業メーカーのノウハウを活かし、Activatable 蛍光プローブを用いて微小ながんを可視化する技術 (ナビゲーションドラッグ) を開発しました。現在、ナビゲーションドラッグの臨床への応用を目指し、臨床性能試験を進めています。同技術は東京大学 浦野教授らにご指導いただいており、多数の論文も報告されています。
手術中の微小ながん部位の可視化が実現すると、がん摘出の精度が向上し、取り残しを限りなく少なくすることができます。このため、この技術を用いた術中迅速診断が実現すると、手術時間の短縮、再手術および再発率の低下が期待され、患者様の負担軽減につながります。
監修
東京大学大学院薬学系研究科・医学系研究科 教授 浦野泰照先生
東京大学医学部附属病院 胃食道・乳腺内分泌外科 教授 瀬戸泰之先生
ND (ナビゲーションドラッグ) は五稜化薬が提案する新規のがん検出技術です。Activatable 蛍光プローブを用いてがん組織を可視化し、手術をナビゲーション (誘導) することで手術の精度をより高く、がん細胞の取り残しを減らすことを目的としています。例えば体外診断薬の乳がん検出プローブでは、手術により摘出された検体に本プローブを滴下し、専用機にてがん部位を検出します (図1)。
「それ自身はなんらかの消光過程の存在により無蛍光であるが, これが観測対象分子と反応, 結合することで強い蛍光を発するようになる蛍光プローブ分子1)」つまり、ターゲット分子と反応する前後で蛍光特性を大きく変化させる蛍光プローブ分子です(図2)。
蛍光プローブ自体はすでに医療現場で広く使用されており、安全性が高く、毒性の低い物質です。五稜化薬の Activatable 蛍光プローブは、各がん細胞において特異的に発現の亢進が確認されている酵素を検出するように設計しています。がん部位の検出に Activatable 蛍光プローブを使用することで、従来検出が困難だった微小ながんの検出が期待されます (図3)。五稜化薬では NDとして、Activatable 蛍光プローブを臨床現場でご使用いただけるよう開発を進めています。
乳がんは女性が罹患する癌の中で最も頻度が高く、日本においては毎年約9.7万人の女性が新たに罹患しており、その数は年々増加傾向にあります(グラフ1: 国立がん研究センター調べ1))
局所にがんがとどまっている症例の場合、根治※に外科療法が有用である可能性が高いと考えられており(乳癌診療ガイドライン2022)、実際に外科的切除術が行われています。
※根治:症状が完全に治り、病院で治療しなくて良い状態
GCP-006は細胞内に発現する標的酵素と特異的に反応し、蛍光を発する蛍光プローブです。GCP-006の標的酵素は乳がん細胞内で高発現する酵素です。標的酵素と反応前のGCP-006は蛍光を発しませんが、いったん反応すると加水分解され蛍光を発するようなります。がん細胞内でGCP-006が蛍光物質に変換されて、緑色蛍光にてがん細胞が検出できるようになります。
現在の乳房温存手術では、癌の取り残しが無いように切除範囲の決定には術前MRI検査などに加えて、病理医が在籍する施設では切除断端の凍結標本による術中迅速病理診断を行なわれています。現行の術中迅速病理診断においては熟練した技師および病理医が手術中に待機していることが必要ですが、現状では病理医や臨床検査技師が不足していることに加え、そもそも病理診断施設がないなどの理由で、術中迅速病理診断が行われていない施設も少なくありません。その結果、術後の確定診断で癌細胞の遺残が確認された際に再度手術が必要となるケースがあり、癌細胞の遺残なく手術を完了することは患者の負担を軽減する上で、非常に重要となります。
本GCP-006 は、これらの課題を解決できる性能が示唆されており、2023年3月に製造販売承認申請を提出しております。
乳がんナビゲーションドラッグ(GCP‐006)の製造販売承認申請のお知らせ
食道がんは日本国内において年間 2 万人以上が罹患、1 万人以上が死亡する疾患です。他の消化管がんと比較すると、早期の段階からリンパ節への転移がみられることや、容易に周囲臓器に浸潤すること、また手術侵襲が大きく、手術死亡率、術後合併症、再発の頻度が高いことなどから、予後も極めて不良と言われています 1, 2)。
日本における食道がんの罹患率は男性でゆるやかに増加傾向にあり、女性は横ばいです。また、性別では男性が多いことが知られています(国立がん研究センター調べ(グラフ2))。
EP-HMRGはジペプジルペプチダーゼⅣ(DPP-Ⅳ)を検出する蛍光プローブです。DPP-Ⅳ は食道がん細胞表面に多く存在しているとの報告3)があります。
EP-HMRGプローブそれ自身は無蛍光であるため、細胞外から散布しても蛍光は観察されません。しかしDPP-Ⅳを高発現しているがん細胞に出会うと、細胞膜表面上のDPP-Ⅳによる反応が起こり、強い蛍光を発するHMRGが生成されます。HMRGは細胞膜を通過し、主に細胞内のリソソームに蓄積するため、がん部位を特異的に蛍光染色できます。
東京大学医学部附属病院での臨床研究において、EP-HMRGをヒト食道がんESD摘出検体にスプレーし、がん部位の特定を試みた結果、EP-HMRG には高い感度と特異性があることが示されています。
(提供:東京大学医学部附属病院 胃食道・乳腺内分泌外科 瀬戸先生)
詳細リンク:http://www.nature.com/articles/srep26399
膵液漏は膵臓やその周辺の臓器を対象とした手術後に、膵臓で分泌される膵液が腹腔内へ漏出する術後合併症です。膵液中にはタンパク質・脂肪・糖質を分解する消化酵素が含まれており、感染症の誘因となるほか、自己消化作用により腹腔内の血管を損傷して出血を起こすなどの重篤な症状に発展することがあります。
例えば、膵がん治療における膵臓の切除は難易度が高く、膵液漏は高率(10-50%)に発生することが報告されています 1, 2, 3)。また、リンパ節郭清や脾臓摘出を伴う胃がんの手術においても高率(5-22%)に発生することが報告されています 4, 5, 6)。
高い頻度で発生する膵液漏ですが、膵液は無色透明であることから術中に確認することが困難なため、術中に膵液漏の有無を確認する方法の開発が望まれています。
膵液検出プローブ(gPhe-HMRGにトリプシンを添加した製剤)それ自身は無蛍光ですが、膵液に散布すると、膵液中に含まれるキモトリプシノーゲンと反応し、強い蛍光を発するHMRGが生成されます。
このHMRGの蛍光を測定することで、膵液を検出することが可能となります。
五稜化薬株式会社は現在、上記3品目を外科的手術におけるナビゲーションドラッグとして
1日も早く医療現場にお届け出来るよう開発中です。