FerroOrange および ROSFluor シリーズを用いたフェロトーシス (ferroptosis) 時間経過の生細胞イメージング
フェロトーシスは細胞内の遊離鉄 (Fe2+) 依存的な細胞死で、アポトーシスやネクローシス等とは異なるメカニズムであることが知られています。過剰な Fe2+ により発生した活性酸素種 (ROS) により脂質過酸化などが引き起こされ、細胞死が誘導されます。いくつかの神経変性疾患においてフェロトーシスが引き起こされること、がん細胞はフェロトーシス抵抗性であることも明らかになってきています。
ここでは、フェロトーシスを誘導する細胞内の過剰な Fe2+ を FerroOrange で検出するとともに、ROSFluor シリーズの APF, OxiORANGE および HYDROP による細胞内活性酸素種の検出を試みました。
フェロトーシス過程における鉄イオンおよび活性酸素種発生の可視化
HT-1080 細胞への erastin 投与によってフェロトーシスを誘導し、細胞死に至るまでの途中となる 3, 6, 9 時間後の各時点における細胞内の Fe2+ および ROS 発生を蛍光イメージングしました。30 µM erastin 投与後、各観察時点の 30 分前に FerroOrange (1 μM), APF (5 μM), HYDROP (1 μM), および OxiORANGE (1 μM) を添加し細胞と反応させました。遊離 Fe2+ を検出する FerroOrange は erastin 刺激後 3 時間で一番蛍光強度が高くなりましたが、ヒドロキシラジカル (·OH)、次亜塩素酸 (HClO)、およびパーオキシナイトライト (ONOO–) を検出するAPF、ヒドロキシラジカル (·OH) と次亜塩素酸 (HClO) を検出する OxiORANGE、および H2O2 を特異的に検出する HYDROP は、刺激後 6 時間で蛍光強度が最大となり、その後減少する蛍光が観察されました。これらのことから、フェロトーシスの過程においては細胞内鉄イオンの増加に続いて活性酸素種が増加することが確認できました。
フェロトーシスを誘導した HT-1080 細胞における FerroOrange および APF の蛍光の変化
Erastin を添加した HT-1080 細胞の FerroOrange および APF の蛍光を、各波長域の蛍光強度(上段、中段)および疑似カラーで重ね合わせた。マゼンタは FerroOrange の蛍光、緑は APF の蛍光を示す。スケールバーは、100 µm。
フェロトーシスを誘導した HT-1080 細胞における OxiOrange および HYDROP の蛍光の変化
Erastin を添加した HT-1080 細胞の OxiOrange および HYDROP の蛍光を、各波長域の蛍光強度(上段、中段)および疑似カラーで重ね合わせた。マゼンタは OxiOrange の蛍光、緑は HYDROP の蛍光を示す。スケールバーは、100 µm。
実験プロトコル
- 3.5 cm ガラスボトムディッシュ(培養容器)に 2 × 105 個の HT-1080 細胞を播種して培養し、細胞を接着させた。
- 培養上清に終濃度が 30 µM となるように erastin を加え、37℃, 5% CO2 条件下で 3, 6, 9 時間培養。
- Erastin 刺激後 2.5, 5.5, 8.5 時間の時点で、に培養上清に各プローブを添加し、37℃, 5% CO2 条件下で 30 分間培養。
- 上記細胞を HBSSで 2 回リンスし、蛍光顕微鏡で観察。
※細胞の培養条件等により最適な条件は異なる可能性があります。本実験でも、事前に予備試験により試薬濃度および観察までの時間を調整しました。
※細胞がディッシュからはがれやすい場合は、 poly-L-lysine コーティングしたディッシュを使用してください。
実験のタイムスケジュール。3 時間ごとにずらして erastin を投与し、洗浄、蛍光プローブとの反応は、全てのサンプルで同時に行いました。不可逆的な反応をする蛍光プローブで反応の時間経過を観察するため、同条件の細胞を複数用意し、時間を変えて実験することで、擬似的に時間変化を観察しました。