HypoFluor™ Series

MAR

[低酸素応答性蛍光プローブ]

495-540 nm:緑色

~がんや虚血性疾患の研究に~

  • 生細胞で簡便に使用可能
  • Pimonidazole と同等の感度で検出可能
  • フローサイトメトリーに応用可能

生体内において低酸素環境はがんや虚血性疾患など多くの疾患と密接に関連しています。既存の低酸素環境検出試薬である pimonidazole 試薬では免疫染色が必要であり、固定細胞でしか使用できませんでした。しかし、MAR を用いれば簡便に生細胞の低酸素状態を検出可能です。

 

MAR は Merck KGaA (Darmstadt, Germany) からも全世界にて
SCT 033 BioTracker™ 520 Green Hypoxia Dye の名前で販売されています。

価格

型番 製品名 容量 希望小売価格(税抜価格)
AR5101-U2 MAR 25 μg × 2 ¥ 25,000

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    MARの物性

    名称 検出対象 反応 膜透過性 Absmax (nm) FLmax (nm)
    MAR hypoxia 不可逆 あり 498 520

     

    1.生細胞で簡便に使用可能

    厳しい低酸素状態になるにつれて蛍光強度の増加が観察されます。低酸素環境検出にはpimonidazole試薬を用いるのが一般的でしたが、細胞固定と免疫染色が必要でした。MARは、生細胞に添加するだけで低酸素環境の蛍光イメージングが可能となります。

    図1. 低酸素環境におけるMARの還元反応

    MARは反応前は蛍光を発しませんが、低酸素状態において生体内還元酵素の働きによりアゾ基が還元的な開裂を受けることで、強い緑色蛍光を発する2Me RGを生成し、蛍光を発するようになります。2Me RG は主に電荷によりミトコンドリアに局在しやくすなります。

    2. Pimonidazoleと同等の感度で検出可能

    図2. MARならびにpimonidazoleを用いたA549細胞への低酸素負荷による蛍光検出

     

    A549 細胞に対して、各酸素濃度条件におけるMARならびにpimonidazoleによる染色観察を行った。Pimonidazoleは約1%の酸素濃度に応答するのに対し、MARは約5%程度の酸素条件でも応答性を示していた。

  • FerroOrange および MAR によるスフェロイド中の低酸素イメージング

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    FerroOrange および MAR によるスフェロイド中の低酸素イメージング

    低酸素環境では定常状態に比べ、細胞内 Fe2+ が増加していることが報告されています (T. Hirayama et al., 2017, Chem. Sci. 8: 4858-4866)。そこで、2価の遊離鉄イオンを検出できる FerroOrange と細胞の低酸素応答を検出できる MAR を同時に用いて、低酸素環境で生じる細胞内 Fe2+ の上昇をライブセルイメージングで観察しました。

     

    HepG2 細胞のスフェロイドに MAR (終濃度 1 µM) を加え、37℃, 5% CO2 条件下で約 4 時間培養後、さらに FerroOrange (終濃度 1 µM) を加え、30 分間培養しました。スフェロイド内部で FerroOrange の強い蛍光が観察され(左、赤)、また MAR の蛍光(中央、緑)により同範囲における低酸素状態も検出されました。両者を重ね合わせた画像(右)から、ほぼ同じ範囲で低酸素応答および遊離鉄の増加が起こっていると考えられます。

     

    実験プロトコル

    1. 細胞が接着しにくいディッシュで HepG2 細胞を培養し、スフェロイドを形成させました。(市販のスフェロイド形成キット等も使用可能です。詳しいスフェロイド形成方法、必要な細胞数等は、ご使用のキットやプレートのプロトコルをご参照ください。)
    2. スフェロイドを顕微鏡観察に適した「ガラスボトムディッシュ」等の容器に注意深く移して培養し、スフェロイドを接着させました。
    3. スフェロイドを壊さないように優しく MAR が終濃度 1 μM となるよう添加し、37℃, 5% CO2 条件下で 4 時間培養。
    4. FerroOrange をスフェロイドの入っている培養容器に終濃度 1 μM となるように添加し、37℃, 5% CO2 条件下で 30 分間培養。
    5. スフェロイドを捨てないように気を付けながら HBSS で培養容器を優しくリンスし、HBSS 中で蛍光観察しました。

よくあるご質問

  • Q 25 μg の MAR で何回分のアッセイができますか?
    A

    MAR 1バイアル (25 μg) で 1 mM のストック溶液が約 43 μL できます。1アッセイに 1 μM MAR 溶液を 1 mL 使用した場合、約 40 回のアッセイが行える計算となります。

  • Q MAR が細胞内のどのリダクターゼと反応するか教えてください。
    A

    MAR と反応するリダクターゼは正確には同定されていませんが、diphenyliodonium chloride を加えると反応が阻害されることから、NADPH cytochrome P450 等によって還元されると考えられています。

  • Q MAR によって溶液の酸素濃度を測定できますか?
    A

    MAR は低酸素に応答して活性化する細胞内のリダクターゼと反応して蛍光物質を生成します。この反応は複雑で検量線を引くのは容易ではないため、溶液の酸素濃度測定に使用するのは難しいと考えられます。。

  • Q MAR と反応させた細胞をフローサイトメーターで解析したいのですが、解析中の酸素濃度は測定に影響しますか?
    A

    MAR は細胞の低酸素応答で増加する酵素活性によって、非可逆的に蛍光が増大します。低酸素環境の細胞中で増加した蛍光は酸素濃度が上がっても保持されるため、フローサイトメーター測定中の酸素濃度によって MAR の蛍光が減弱する心配はありません。

  • Q 固定後に MAR の蛍光を観察できますか?
    A

    はい、ホルムアルデヒドによる短時間の固定だけなら蛍光は保たれます。しかし長時間の固定やアルコールによる処理、膜透過処理などを行った場合の効果は検証しておりません。蛍光が減弱することも考えられますので、事前の検討をお願いします。

参考文献

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※ 一部の文献では BioTracker™ 520 Green Hypoxia Dye, SCT 033, Merck (もしくは Millipore, Sigma, Sigma-Aldrich) として言及されています。